師走です。
今年は鍋、つつこ。でアドベントカレンダーを実施しています。まだまだお申し込み可能なので、ご興味のある方はぜひ!
鍋 Advent Calendar 2015
http://www.adventar.org/calendars/751
鍋の本
今回、鍋 Advent Calendar 2015の1日目ということで、どんな鍋をつつこうかといろいろ考えていて、ふと手元にある鍋の本を読み直していてこの記事を書くことにしました。鍋の写真を楽しみにしていた皆さん、初球から星野(元阪急→オリ→阪神)のスローカーブ的な入りですみません(笑)
さてさて。その本はこちら。
中公文庫ビジュアル版『くつろいで鍋料理』です。
1995年に刊行された本に登場する鍋とは?
こちらの本、刊行されたのは今から20年前の1995年1月です。
出版社は中央公論社。1999年に読売新聞社の支援を受け、今は読売新聞社グループの事業子会社「中央公論新社」となっています。そのぐらい歴史を感じさせる本。発行元が変わってしまっていることからもわかるようにすでに絶版で、今は、古本屋さんやAmazonマーケットプレイスなどでしか入手できないものです。僕自身、2年前に鍋、つつこ。を始めてから入手して手元に置いてありました。
本の構成はいたってシンプル。さまざまな鍋とその特徴、レシピを中心に取り上げて、章と章の合間には鍋に関するコラムが掲載されている、といった内容です。
ちなみにこちらの本に載っている鍋はというと……
- 寄せ鍋
- 袋鍋
- かにちり
- たらちり
- …(中略)…
- 石狩鍋
- しょっつる鍋
- ……
などなど。その他、「鶏肉の赤ワイン煮」「ブイヤベース」「鶏肉のマレンゴ風」など、フランス料理にある煮込み料理や、「チーズ・フォンデュ」「きのこのパエーリャ」「ボルシチ」「キムチチゲ」「タイスキ」など、世界各国の鍋(風)料理です。ほんの作りは普遍的ではありながらも、細かな要素(構成要素)が時代を反映しているあたりがとても興味深いです。
たとえば日本の鍋に含まれている「袋鍋」。これ、どんな鍋かわかりますか? その名の通り、さまざまな具材を薄揚げ(油揚げ)に小さく切って詰めて、醤油とみりんで取った出汁スープで煮込むというもの。いわゆるおでんでいうところの巾着のような存在を主役にした鍋です。そうそう、この本ではおでんを「関東だき」として紹介していました(このあたり、今だと関西方面の方からツッコミが入りそうw)。
他にもフランス風鍋で紹介されていた「鶏肉のマレンゴ風」。ぶっちゃけ僕は初めて目にする名前でした。どんなものかというと、なんと!元々はナポレオンのおつきのコックが作ったと言われている歴史的料理だそう。鶏のもも肉を使い、バターで炒めたあと、さまざまな香草とともに炒め、白ワインで煮込んだ後に、トマトやトマトピューレで煮込んでいくもの。トマト煮込みよりも味わいが深そう(あくまで本の字面からの印象です)。
一口に「鍋」と言っても、自分がイメージするものとはだいぶ違うなーと、発見と驚きがあって楽しく読めます。ちなみに「袋鍋」をGoogleで検索したところ(2015年12月1日)、検索結果は約12,500,000。でも、検索結果の1ページ目にはこの本で想定している「袋鍋」らしき結果はありませんでした。これが20年という時間の経過なんですね~
2015-2016年(的な)鍋ランキング
では2015年の今、人気のある鍋、流行りの鍋はなんでしょうか? さまざまな食品関連企業や団体、メディアで調査が行われている中、個人的に注目したのがこちら。
あったか鍋フェア2015~2016
http://www.diamond-dining.jp/nabefair/
都内を中心に多業態飲食店を展開するダイヤモンドダイニングさんの特設ページ。こちらで2015-2016シーズンの最新鍋トレンドが発表されていました。
取り上げられているのは次の8種類。
- ハイブリッド濃厚海鮮鍋
- トルネード肉鍋
- パクチー鍋
- オイル鍋
- 日本酒・ワイン鍋
- 辛旨鍋
- 明太子鍋
- 野菜まみれ鍋
正直、名前だけではまったく画が浮かばない鍋もちらほら。実際にどんな鍋なのかは「あったか鍋フェア2015~2016」のサイトをご覧いただき、ぜひ実際につついてみてください。僕も気になる鍋がいっぱいあったので、今シーズン、行ってみようと思います。
メディアを通じて鍋を知る、革新と伝統
以上、20年前の本をきっかけに「鍋」について考察してみました。20年前と言えば、Windows 95が登場した年。一般家庭にパソコンの概念が浸透するきっかけになった年です。人間で言えば一人が成人する年月でもあります。その年の本の情報を振り返り改めて「鍋」(という概念)について考えてみました。
本の構成で見ると、
- 鍋の種類(名前)
- 鍋のイメージ(写真)
- 鍋の特徴
- 鍋の作り方(材料・レシピ)
となっていて、おそらくこれは20年後の今、2015年に読んでみても違和感はありません。「鍋の本」として十分通用するでしょう。
一方で、取り上げられている「鍋」については時代を反映しているものばかり。「寄せ鍋」や「たらちり」のように今でも手軽につつけるもの、また、「柳川鍋」や「しょっつる鍋」「かきの土手鍋」と言った地域色を前面に出した郷土料理、さらにフランス風の煮込み料理が1つのコーナーになっているあたりは、バブル後の日本の(ヨーロッパに対する憧れのような)雰囲気が盛り込まれているように思います。また、今では日本の鍋と言っても過言ではない「キムチ鍋」が、韓国料理の「キムチチゲ」として掲載されているのも、その後の韓国料理ブームと合わせて考えてみるとなかなか深いですね。
このように「鍋」という概念は存在し続けている一方で、その中で意味するもの(表現)は変化をし続けています。それこそ先ほどのダイヤモンドダイニングさんの特設ページに挙げられていた鍋なんかは20年前には思いもよらなかったものばかりでしょう。20年後にこれらの鍋がはたしてどうなっているのか、興味深いところ。
「鍋」を軸に考える「革新」と「伝統」
とは言え、定番というのは最初の一歩があり、その次の一歩、また一歩……と継続から生まれてくるもの。その定番がさらに続くことが伝統になります。そして、継続する最初のきっかけは既成概念の破壊、いわゆる革新から生まれるのも1つの事実。
たとえば。
鍋、つつこ。ではもちろん、世の中一般的にも人気の鍋になった「もつ鍋」。実はここまで定番になるには20年ほどの時間が経過しています(最初のきっかけは1992年の新語・流行語大賞銅賞受賞からと言われています)。これは1992年ごろに東京にもつ鍋専門店ができたことから若者の注目を集め、雑誌やテレビが取り上げブレイクし、その後、一時期は廃れつつも、最近はまた注目を集め、今ではチェーン店の居酒屋メニューに含まれたり、コンビニでレトルトタイプが売られるぐらい定番になっているのです。このように、登場したときは物珍しく一般的ではない鍋でも、時間の経過とその鍋に触れる人たちの反応、世の中の変化とともに、定番になる鍋はたくさんあります。その定番が続いていくことで、いつか「伝統的な鍋」という呼称が付けられるかもしれません。
この先、鍋の世界で「革新」と「伝統」が繰り返されながら、今後どのような鍋が生まれ、伝統として続いていくのか。鍋、つつこ。では、これからも「革新」的な鍋も、「伝統」的な鍋も、楽しみながらつついていきたいと思います。
鍋 Advent Calendar 2015
http://www.adventar.org/calendars/751
(文責・馮)